どうして人は花が好きなのか、なぜ花に意味を持たせるのか。
月刊フローリストに連載している「考花学のすすめ」を定期的に掲載しております。
夏をことのほか重要視した北欧の人々にとって年間を通して最も日照時間が長い時期である夏至は特別なときです。五月になるとヨーロッパ各地では‘五月の柱’なる樹木を模った背の高いポールが至るところに立てられ、春の訪れを喜び、来たる夏の訪れを祈願します。夏の訪れが遅い北欧ではこの柱のお目見えが六月下旬の夏至までずれ込みます。スウェーデン語でMAISTONG(五月の柱)と呼ばれる樹木を模ったポールは夏の訪れを待ちわびたスウェーデンの人々にとってはとても大切な夏至祭のシンボルなのです。
MAISTONGを求めてスウェーデン中部のダーラナ地方を訪れたことがあります。なぜそんなにもMAISTONGにこだわるのかというと、この樹木を模ったポールの装飾にフローラルアートが欠かせないからです。特にリースとブーケが何らかのかたちでポールに飾りつけられていないとMAISTONGとは呼べないくらい大切なデザインの一部になっています。スウェーデン人の祖先である北方ゲルマン民族は常緑樹で作ったリースに神聖なる護符の役割を担わせてきたといいますから、そんな習わしが大切な夏の象徴であるMAISTONGといつしか結びつけられたのでしょう。また野の恵みから作られたブーケは古くから五穀豊穣のシンボルであり、夏至祭が夏から秋へかけての農作物の収穫を祈願する祭りであったことがうかがえます。
毎年6月末の夏至全日には、村の女性たちが野に出てMAISTONGを飾り付けるためのリースやブーケに使う花材を採集する姿が見られます。この時とばかりにバターカップ、ワスレナグサ、スズランなどの野草の花をたっぷり摘み採ります。特にゲラニウム・シルバティクムと呼ばれるフウロソウ科の花は現地で「夏至の花」と呼ばれるくらいこの時期に親しまれている花で、ゼラニウムに似た紫色の花がデザインに映えるのです。花を摘んできた女性たちはそのまま大きなリース作りに没頭。子供たちが次々と小さなブーケを束ねていき、それを母親たちが鉄製の大きなリングに一つまた一つと結びつけてリースを形作っていきます。ここで面白いのは、大きなリース作りが数々のブーケを素材として行われていること。束ねるという行為そのものがヨーロッパにおいて原初の物つくりの基礎的テクニックだったという説もあるくらいで、ブーケおよびリース作りにアートの根源を見たような気がしました。
女性なら誰もがフラワーデザイナー。そんな素朴かつ素敵な花文化が夏のスウェーデンには今もしっかりと息づき、大自然の活力の象徴ともよべる聖なる樹木MAISTONG作りに欠かせないものになっているのです。
フローリスト連載2012年6月号より
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