どうして人は花が好きなのか、なぜ花に意味を持たせるのか。
月刊フローリストに連載している「考花学のすすめ」を定期的に掲載しております。
昔から新年を迎えると春の七草の話題が持ち上がります。そこできまって「春の七草いくつ言える?」ということになります。「セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ」ということになるのですが、これはいつごろから定められているのでしょうか。
南北朝時代の元中五年(1388)にまとめられた『蔵玉和歌集』には二条良基撰の「芹 ごぎやう なづな たびらこ 仏座 すずな すずしろ これぞ七草」という歌があり、今と順番は違いますが、「これらが七草である」と言っているこれが最初の例です。ちなみにタビラコとはホトケノザの別名であることからホトケノザが連呼されていることになります。ハコベラはどこにあるのかというのが謎です。実はタビラコがハコベラのことだったとする説もありますがそれはさておき。江戸時代中ごろに出された『年中故事要言』の中でようやく「せり なずな ごぎょう はこべら ほとけのざ すずな すずしろ これぞななくさ」となったということですから、意外に今の形になったのはそれほど古い時代ではなかったことになります。
これら七つの草を含む雪の隙間から新芽を出した新春の野草を若菜といいます。若菜は寒く長い冬を耐え抜いてきた人々にとって活力に満ちた春の息吹と暖かさを連想させてくれるものでした。ですから迎春をその主なる目的とした新年の行事に若菜は欠かせない存在となっていたのです。そんな中、抜擢されたのが前に挙げた七つの若菜です。奈良時代にはすでに観賞用の秋の七草が制定されていましたから、これに対抗して春の七草になったとする考えもあります。
新年七日はその年最初の節句でもある人(じん)日(じつ)です。元旦から六日までは日頃お世話になっている動物を当て込み、その日にはその動物の殺生を禁じました。元旦の鶏の日を始めに、以降、犬、豚、羊、牛と続き、六日目を馬の日、最後の七日目を人の日と定めたので人日というわけです。だからこの日は人を大切に扱う日となりました。そこで人日は冬場には摂れなかった栄養補給の日として大切な意味を持ちました。厳選された七種類の若菜を入れた特性粥を食べるのも、人の身体を労わるための習慣だったのです。
いけばなでも七つの草が新年の花と関連付けられています。室町時代の花伝書である『仙伝抄』にはヤナギの枝を器の中央に据えて根本部分に七つの草を立てる新年の花が紹介されています。これが春の七草と同じ若菜だったかどうかはわかりませんが、どこかつながりがあるのではないかとイマジネーションは広がります。
フローリスト連載2013年1月号より
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