どうして人は花が好きなのか、なぜ花に意味を持たせるのか。
月刊フローリストに連載している「考花学のすすめ」を定期的に掲載しております。
スペインと言えばバルセロナ、バルセロナと言えばガウディが真っ先に思い浮かぶ人も多いのでは。19世紀末から20世紀の初頭にかけてスペインが誇る一大商業都市バルセロナを類まれなる創造力を駆使して彩った異端の大建築家。それがアントニオ・ガウディ(1852~1926)です。
ガウディ建築のユニークさは彼が大自然から素直に学んだ点にあります。バルセロナを中心としたカタルーニャ州の片田舎に生まれたガウディはアーモンドやオリーブの樹、あるいはブドウの蔓に囲まれた植物との縁深い幼少時代を過ごしました。ガウディは必然的に植物の形状や、その美しさにごく普通に触発を受けてきたと言えるでしょう。
バルセロナの建築学校に入学したガウディは型にはまった講義は聴かず、授業も欠席しがち。彼は建物の構造と、建物に付随する装飾や周囲の環境を分けて考える今までの紋切り型の理論にどうも馴染めなかったようです。「建築物と周囲の環境が調和してこその建築。そして装飾は同時に建物の構造の一部であらねば」という彼独自の理想が芽生えたようです。これは彼が幼い頃から慣れ親しんできた植物のあり様に理想の姿を見出したからでした。「植物は美しい。そして、その美しさを形作っている根、茎、幹、枝、葉、そして花などは植物が植物たりえるために十分に機能してもいる。」いつしかガウディは機能と美が一体化し両立する建築美学に傾倒してゆくことになったのです。
植物の蔓や葉、そして花を意匠として数多くの建物にとり入れたガウディ。それらは建物を彩る装飾であるのと同時に、柵になり、柱になり、壁になり、バルコニーになり、屋根になり、煙突になるといった具合に建物の構造としても機能していたのです。
このユニークかつ斬新なガウディの発想と生来の才能を高く評価した人物に大実業家グエルがいました。グエルは別邸や本宅の設計と建築をガウディに依頼し、さらに都市計画の一環でもあるグエル公園のデザインまでガウディに一任しました。木の幹のごとく林立する柱に支えられた橋、天井を支える花型の意匠などなど、理解あるパトロンの後ろ盾を得て、ガウディは他に類を見ない自然美あふれる空間造りを実現していきます。
生涯最大のプロジェクトは何といってもサグラダファミリア・聖家族教会。建物を高くそびえ立たせるゴシック建築は壁とそれに支えられた柱が命でした。しかし、これでは壁面に大きな窓を開けることが出来ず、内部は暗くなってしまいます。そこでガウディは樹木の形状に倣った柱を考案し、この上部が枝分かれした幾本もの柱で聖堂を支えることによって建物の重さを主に柱のみで支えることに成功。そのせいで聖家族教会の礼拝堂は今でも優しい木漏れ日のような光に満ち溢れているかのようです。
さあ、いよいよ2020年代には念願の完成を見る予定です。
フローリスト連載2013年10月号より
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