どうして人は花が好きなのか、なぜ花に意味を持たせるのか。
月刊フローリストに連載している「考花学のすすめ」を定期的に掲載しております。
バラは世界中の人々の憧れの的。その香り、色艶、そして優美な姿が多くのファンの心をとらえて離しません。歴史上その愛好家の数もあまた。紀元前6世紀に活躍した古代ギリシャの女流詩人サッフォー、フランス最後の王妃マリー・アントワネット、ナポレオン妃ジョゼフィーヌなど、そうそうたる顔ぶれです。その中でもバラを国家権力の象徴にまで押し上げた女傑がエジプト王朝最後の女王クレオパトラ(紀元前70年~紀元前30年)でした。
バラがエジプトで人気を博すのは紀元前306年にプトレマイオス王朝が成立してから。実はこの王朝はエジプト人によるものではなく、その地を征服したギリシャ人の王朝でした。今回の主役クレオパトラもギリシャ系エジプト人だったのです。古代の地中海沿岸で愛されたのは5月に美しい花を咲かすガリカ種や香りに優れたダマスク種で、こうした西方生まれのバラを積極的に暮らしにとりいれたのがギリシャ人とローマ人でした。
クレオパトラも先祖であるギリシャ人のファッションをとり入れた一人。当時のエジプトは強大化するローマによって半ば属州とされており、辛うじて自治権を保つのが精いっぱい。そこでクレオパトラは何とか王朝を存続させるため、ローマの権力者に近づこうと知恵をしぼりました。その結果がバラを用いた外交だったのです。
ローマの猛将カエサルをもてなす宴では出席者全員にバラのリースを冠して豊かな香りであたりを満たしました。これを見たカエサルは用意周到なクレオパトラをすっかり見初め、互いに恋に落ちます。カエサル亡き後、今度は有能な武将アント二ウスをエジプトに招いたクレオパトラは大理石の床にバラの花弁を70センチも積もらせて武将とその一行を迎え入れます。この粋な計らいにアント二ウスも魅了され、彼もまたクレオパトラの虜になってしまうのです。しかし女王の努力もむなしく、アントニウスは政敵に討たれ、あわれクレオパトラも彼と運命を共にします。
バラの花弁で満たした浴槽につかるのが大好きだったと伝わるクレオパトラ。バラの花弁を水に浸して香りの良いバラ水を生んだのも彼女だったとする説もあります。このことがもとになって後にパフュームが淑女の友になることを知ったらクレオパトラはどんな顔をして私たちを魅了してくれるでしょうか。
フローリスト連載2014年5月号より
日々、花や植物に癒され、ともに生活していく。
花や緑をもっと身近に感じるための情報「植物生活」
景介校長の考花学も掲載してます!