どうして人は花が好きなのか、なぜ花に意味を持たせるのか。
月刊フローリストに連載している「考花学のすすめ」を定期的に掲載しております。
戦争によって引き裂かれた一組の夫婦。行方不明の夫を探してヒマワリ畑の中をさ迷う妻。映画『ヒマワリ』の有名なシーンです。ヒマワリの種は油をはじめとして様々な恵みを人々に与えてくれます。
ヒマワリの原産地は北アメリカ。その有用性が魅力で、やがて南アメリカに伝播するとインカ帝国の人々により太陽の象徴として大切にされたと言われています。ヒマワリの花のかたちは普遍的に太陽を連想させていたというわけです。
また、スペインにこの花がもたらされたのは16世紀のこと。まさしく黄金に輝く太陽のようなこの花がヨーロッパの人々に与えたインパクトは強烈なものでした。しかし背に腹は代えられず丈夫でよく育つヒマワリの活躍の場はしばらく食用に限られていました。
ようやく17世紀になると、この花もヨーロッパの隅々まで知れ渡ることになり、アートのモチーフとして用いられることになります。フランスの宮廷画家シャルル・ドゥ・ラ・フォスが1688年に発表した『クルュティエ』なる絵はギリシャ神話の太陽神アポロに恋焦がれる海の妖精クルュティエの悲しい顛末を描いたもので、叶わぬ恋に途方に暮れる海の女神のかたわらには大きなヒマワリの花が描かれています。この絵のイメージから人々は古代ギリシャとこの花を強引に結びつけ、ヒマワリを太陽神アポロのシンボルとしたのです。もちろん古代ギリシャ人が一度もヒマワリを見たことがなかったことはいうまでもありません。しかしその姿の完璧さから、たちまちギリシャ神話を代表する花となってしまったというわけです。
こうして新しき太陽の象徴たる花はキリスト教のシンボルとしても受け入れられます。若いヒマワリの花が太陽の光を追うように角度を変えるという特性があります。この何とも不思議な特性からキリスト教徒はヒマワリを「従順」あるいは「忠誠心」、また「熱い信仰心」の象徴として尊んだのです。
強い花、便利な花、太陽を思わせる花、従順な花。いいことづくしのヒマワリの魅力に人類が飽きことはないでしょう。
フローリスト連載2014年8月号より
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