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どうして人は花が好きなのか、なぜ花に意味を持たせるのか。
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聖なる水、ワイン

聖なる水、ワインイメージ

 「若い娘や青年たちが、罪のない子供のような陽気さで、蜜の甘さの葡萄の実を編籠に入れて運んでゆけば、その真ん中に一人の少年が響きのよい竪琴を朗々と弾じ・・後略・・」というのは古代ギリシャの吟遊詩人ホメロス作の叙事詩『イーリアス』の一節です。ブドウの収穫は昔から喜ばしい行事であり、そこから得られるワインは人類の憧れでした。

 ブドウの原産地はコーカサス地方および西アジア。古くから東西文化の十字路となったこの地から様々な土地に伝えられました。ブドウの搾り汁を発酵させて作ったワインはおそらく人類史上最も古いお酒の一つに間違いありません。紀元前5500年頃のメソポタミアに最古の具体的な例証があるくらいです。

 古代エジプト人にとってブドウは豊かな生命力を象徴する聖なる植物で、そこからもたらされるワインは王族や神々に捧げられる飲み物として大切にされました。古代ギリシャ人は酸っぱいワインにシロップを混ぜて飲んだと伝わりますが、これをwoinos(ブドウ)と呼び、これが後のwineの語源となりました。

 ワイン造りを洗練させたのは何と言っても古代ローマ人。紀元前121年は諸々の気象条件が重なってローマ領内のブドウの当たり年、大ワイン年でした。この年に採れたブドウから作ったワインの味はふくよかでこくがあり、果実味に富んでそれは美味しいものでした。ローマ人はこんな美味しいワインを常時飲みたくなり、醸造法に工夫を凝らしたのです。彼らはブドウをゆっくりと押し潰しながら果汁を取り出す搾汁器を考案し、果汁を木製の樽に詰めて保存しました。こうするとブドウのうま味を余すことなく搾り取ることができ、発酵時に雑菌の繁殖を抑えて味をまろやかにすることが可能となったのです。

 後にフランス、ドイツ、イタリアに分割されていったフランク王国のカール大帝はローマ人から受け継いだワイン造りを産業として奨励し、これらの地に伝統が息づくきっかけをつくりました。その中でも特にフランスは豊富な種類のブドウの栽培に適し、中世から近世にかけて数々の名品を生み出しました。大西洋に面したボルドーはブドウの栽培に適していなかったイギリスへのワイン供給地として発達し、内陸のブルゴーニュでは修道士らが『聖書』でも聖なる水とされていたワイン造りに励んだのです。

 白ブドウから採れる白ワインは口当たりの良さから王侯貴族が好み、赤ブドウから採れる赤ワインはその他多くの人に心地よい酔いをもたらしましたが、それも今は昔。赤白様々なワインを好みによって選べる時代に生きる幸せを噛みしめたいものです。

フローリスト連載2014年10月号より(2014年8月20日最終稿)

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